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『涼宮ハルヒの憂鬱』/ムージル『特性のない男』/ファインマン経路積分 2

 大学に入って読んだ本に、このような感覚を扱ったものがあります。20世紀初頭のオーストリアの作家、ロベルト・ムージルの未完の長編『特性のない男』です。主人公の数学者ウルリヒは、現実に存在するものを、存在しないが起こり得る(得た)可能性があるものよりも重視しない、「可能性感覚」といったものを持ち合わせています。彼にとってこの現実は、無限の起こり得た世界の中の一つに過ぎません。そして彼は無数の可能性から一つを選ぶことをより、何者でもない「特性のない男」という可能性の領域にとどまることを選びます(だいぶ昔に3巻まで読んだだけなので、誤解があるかもしれません)。

 このような消極的な人生観に、当時の僕は共感を覚えていました。まだ自分の持つ限界がわからず、傲慢にも無限の選択肢が与えられていると思っていたのも原因の一つでしょう。そういった考えを変えさせたのは、実体験でも文学でも哲学でもなく、ある量子物理学の理論でした。

 リチャード・P・ファインマンが考案した「経路積分」という量子力学の手法があります。量子力学においては、粒子の位置や速度は確定したものではなく、確率的にしか表すことはできません。ここである粒子が状態1(例えば位置x1, 速度v1)から、ある時間が経過した後に状態2(x2, v2)に移行している確率のことを考えます。状態1から状態2への経路は無数に存在します。たとえば同じ速度で最短距離を移動したり、一度x2から離れてから再び近づいたりといったように。そしてこの確率は、ある物理量をその無数の経路で積分したものになります。つまり、状態2である確率には、1から2へ至るあらゆる可能性が含まれているわけです。

 ただ一度の人生では、人は一通りの「物語」しか体験することはできません。しかしそれは、無数の可能性の合算によるものであり、選ぶことのなかった物語もその中に含まれています。これを知ってから、僕は過去しなかったこと、できなかったことを悔やむことはなくなりました。有限の経験しかすることはできなくても、それは無限の可能的経験の中の特別な一つなのです。
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No title

こんばんは。

>これを知ってから、僕は過去しなかったこと、できなかったことを悔やむことはなくなりました。
>有限の経験しかすることはできなくても、それは無限の可能的経験の中の特別な一つなのです。

おおお。凄い。
えてして、人を傷つけるのは
“あったかも知れない人生に思いを馳せること”だと思っているのですが。

ここまで、言い切ってもらうと爽快感ありますね。

No title

ほんとはミクロな世界の理論だから、ちょっと飛躍があるけどね。

ちなみに、トマス・ピンチョンも『メイソン&ディクソン』で、これに近い歴史観を書いています。
プロフィール

大熊座から来た男

Author:大熊座から来た男
HNは池澤夏樹『スティル・ライフ』より。
ブログ名は、ツンデレ美少女風に読んでください。
CV:今井麻美、斎藤千和推奨。

膵腺房細胞癌という非常に珍しい病気と闘いながら、気候変動(特に北極圏問題)や気候工学(ジオエンジニアリング)について学んだ情報を発信していきます(体調不良のため、最近は闘病ブログになりつつあります)。気候学は独学で勉強中なので、いろいろとご指摘お願いします。

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