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病院食と開高丼:『孤独のグルメ』、『地球はグラスのふちを回る』

病院の朝食。おかゆ嫌い。

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 胃の出血の可能性があったため、検査のために数日間入院していました。特に大したことはなかったみたいで今日退院しました。胃カメラの検査のため、2日間絶食していたのですが、そこで思い出したのは僕の人生のバイブル、『孤独のグルメ』の特別編、入院食の回。中年男の主人公が定食屋などで食事するだけのこの漫画の中で、肋骨の骨折のために入院したときの食事について描かれている異例の回です。

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久住 昌之

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 食欲旺盛な主人公は、隣のベッドで看護師に食事を柔らかくつぶしてもらった老人がそれを弱弱しくすすっているのを見て、「それでもひとり食べるんだな」「生きているということは体にものを入れてくということなんだな」と思います。

 物理的に考えれば、身長170cmちょっと、体重少し落ちて52kgほどの僕は、一日に約2000kcalを消費する熱効率40%ほどの熱機関となります。それを維持していくのに、必要なタンパク質、ビタミン、ミネラルを含む同じだけのエネルギーを持つ食物と2リットルほどの水が必要とされます。生命の維持とは、結局のところこの物質の循環です。

 そして食物とは、同じような循環によって維持されてきた他の生命です。人間は食物連鎖の頂点に立つ生物として、捕食される危機を感じることなしに、他の生命を体に取り込むことで生命を維持しています。そして食事は単なる生命活動維持の義務ではなく、自分が生き延びるために他の生命を奪い、それを取り込むというエゴイスティックな行為に快楽を覚えることでもあります。食べる行為は、生と死が交錯する場に他なりません。

 このような人間の業と快楽を徹底して追求した先人の一人に、作家の開高健がいます。記者としてベトナム戦争に従軍し、ゲリラの攻撃を受け200人中17人しか残らなかったという文字通りの九死に一生の体験をした後、彼は父親の故郷である福井県の旅館に宿泊します。冬の福井の味覚と言えば越前カニですが、そこで焼きカニやカニ刺しなどで一通りその美味を堪能した後、主人が出した二合のご飯の上に、越前ガニのメスであるセイコガニの身や卵巣などを八杯分乗せた丼の味に感激し、それ以来このシンプルかつ豪快な丼は開高丼と呼ばれる旅館の人気メニューとなりました。

 開高健の食にまつわるエッセイの最高傑作、「越前ガニ」からこのセイコガニについて描かれたところを引用してみます。擬音語や形容詞で畳みかけるような独特の描写が特徴的です。また彦麿呂の決め台詞の元ネタでもあります。


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「雄のカニは足を食べるが、雌の方は甲羅の中身を食べる。それはさながら海の宝石箱である。丹念にほぐしていくと、赤くてモチモチしたのや、白くてベロベロしたのや、暗赤色の卵や、緑色の“味噌”や、なおあれがあり、なおこれがある。これをどんぶり鉢でやってごらんなさい。モチモチやベロベロをひとくちやるたびに辛口をひとくちやるのである。脆美、鮮鋭、豊満、精緻」(『地球はグラスのふちを回る』新潮文庫 p.96)

 生と死が交錯する戦場の激烈な体験の後、80年代に入ってからは開高健は小説家というよりむしろ美食や釣りに関するエッセイストとして活躍します。この美食という行為も、やはり業を背負った人間のエゴを極限まで追求する戦場のようなものだったのではないでしょうか。僕もこれからもおいしいものをいっぱい食べていきたいのですが、その行為に見合うための義務、つまりその生命を生み出す生態系を保持するという仕事を全うしたいと思います。今週末には、開高丼食べてきます。

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No title

入院、お疲れ様でした。

>食べる行為は、生と死が交錯する場に他なりません。

>その行為に見合うための義務、つまりその生命を生み出す生態系を保持するという仕事を全うしたいと思います。

素晴らしい。

No title

人間だけが、捕食されずに他の生き物をおいしく食べられるという特権を持っているので、一種のノブレス・オブリージュがあるのではと。

退院後の最初の食事は親子丼と豚汁( ゚Д゚)ウマー。
プロフィール

大熊座から来た男

Author:大熊座から来た男
HNは池澤夏樹『スティル・ライフ』より。
ブログ名は、ツンデレ美少女風に読んでください。
CV:今井麻美、斎藤千和推奨。

膵腺房細胞癌という非常に珍しい病気と闘いながら、気候変動(特に北極圏問題)や気候工学(ジオエンジニアリング)について学んだ情報を発信していきます(体調不良のため、最近は闘病ブログになりつつあります)。気候学は独学で勉強中なので、いろいろとご指摘お願いします。

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