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4月29日 AMEGからのメール、大学航空排出問題

 さっきメールアドレスを登録していたArctic Methane Emergency Groupよりニュースのメールがあり、来週ホワイトハウスでオーストラリアの科学者が北極圏の現状と、2年後に予想される海氷の激減について話すことになったそうです。ヨーロッパの議会では北極海氷は大きな話題となっているそうですが、アメリカではおそらくまだでしょう。ホワイトハウスがどのような反応を示すかが、この問題の大きなカギになるのではないでしょうか。AMEGでは対策として北極圏への気候工学の適用を主張していますが、それについての中立的、客観的、定量的な議論が今すぐにでも必要とされています。 http://www.ameg.me/

 また、大学の航空温室効果ガスの問題に関していくつかの大学、学会、NPOに提案をお送りしていますが、大学の気候変動対策に取り組んでいる全国的NPOの方から、それについてメンバーと検討するという返事を頂きました。この団体がこの問題を扱ってくれれば、状況は大きく変わってくるのは確実と思われます。

 以前取り上げた平成18年度東京大学を例にとり、今度は空調、照明といった直接研究、教育に関係ない(学校に行かず家にいても蛍光灯やエアコンは使うので)排出量を差し引いて、純粋に研究、教育(実験器具の使用、ハンドアウトの印刷等)のみの排出量を計算してみます。東京大学の電力の半分は空調、照明に使われているので(http://www.tscp.u-tokyo.ac.jp/about.html)、キャンパス内からの排出は84,123t/年、航空排出のCO2換算(RFI=2.7)は62,575t、鉄道利用は723tより、これらから航空排出の割合を計算すると、全体の約42.4%。これでは、どれだけ学生がリサイクルや節電を頑張っても、航空排出を減らさないと意味がありません。今後は学生団体にもアプローチしてみます。

最後に北極圏の現状が一目でわかるYoutube動画(30秒ほど) https://www.youtube.com/watch?v=YgiMBxaL19M
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物語の中の気候、気象工学の分類

 物語の中に出てくる気候および気象工学を分類してみました。『気象を操作したいと願った人類の歴史』(2010)ジェイムズ・ロジャー・フレミング著を参考にしています。未読のものもあるので、内容についての誤りがあったらご指摘お願いします。*印はテラフォーミング(地球以外の惑星の気候改変)となります。

・気候工学

SRM (太陽放射管理)

『グスコーブドリの伝記』(1932、童話) 宮沢賢治 (作者の意図していない火山のエアロゾル効果)
『アメリカの爵位権主張者』(1892、小説) マーク・トゥエイン 太陽黒点制御?

*『テラフォーマーズ』 (2011~、漫画) 貴家悠(原作)、橘賢一(作画) 苔とゴキブリによる反射率改変(火星)
*『レッド・マーズ』 (1992、小説) キム・スタンリー・ロビンソン 遺伝子操作された地衣類による反射率改変(火星)

CDR(二酸化炭素除去)および大気組成の改変

『グスコーブドリの伝記』 人工火山噴火からの二酸化炭素増加による温室効果。
『シャングリ・ラ』 (2005、小説) 池上永一 遺伝子操作された巨大樹木による二酸化炭素吸収。

*『クリスタル・サイレンス』(1999, 小説) 藤崎慎吾 地球のメタン・ハイドレートによる温室効果ガス増大(火星)

その他 

『イングランドからの避難―メキシコ湾流を曲げる』(1908、小説) ルイス・P・グラタキャップ パナマ運河の完成による地殻変動。その結果メキシコ湾流の方向が変わりヨーロッパが寒冷化。
『窒素固定社会』 (1980、小説) ハル・クレメント 資源採掘と遺伝子工学による窒素化合物の増大および酸素の枯渇

・気象工学

人工降雨 

「ザ・レインメイカー」(1917、短編小説) マーガレット・アデレード・ウィルソン 化学物質を混ぜ合わせ、蒸発させる。
『風に吹くジングル』(1928、詩) エリザベス・マドックス・ロバーツ 「蒸留器、雲、方程式、アンテナ、クレーン、大桶、酸」
『ザ・レインメイカー』(1955、戯曲) 塩化ナトリウムの投射
「レインメイカーの魔法」(1948、ラジオドラマ) ヨウ化銀の散布
『雲の王』(2011、小説) 川端裕人 ドライアイスによる雲の「種まき」

台風の制御

『雲の王』 吸湿性粒子と液体窒素の台風への投下。

随時追加していきます。物語の中の気象、気候工学についての情報お待ちしております。

免疫力とヴィアン『うたかたの日々』

 僕は今病気の化学療法を受けていますが、医者である友人のアドバイスにより免疫力を上げるような生活を心がけています。最近の研究では、がんの治療において免疫力の果たす役割が大きいことが分かっていて、それを上げることでがんが縮小したケースもあるそうです。そして、免疫力は睡眠や栄養といった肉体的なものだけでなく、精神的な状態にも影響します。よく笑うことで免疫力が上がるということを聞いたことがありますが、精神的な安定、充足も重要な要素でしょう。楽しむこと、感動することが闘病につながるなら、闘病も悪いところばかりじゃないと思えます。

 このことから思い出した小説があります。フランスの現代作家、ボリス・ヴィアンの代表作である『うたかたの日々』(1947)です。パリで楽しい生活を送る、若く裕福なカップル。二人は友人たちに祝福され結婚しますが、美しい妻クロエは肺の中に水連が咲くという奇妙な病気に侵されます。この病気を食い止めるための方法は、24時間周囲に美しい花を絶やさないこと。自分より美しい花があると、水連は恥ずかしがって大きくなろうとしないのです。高価な花の代金のために財産を失っていき、彼らの幸福な生活が崩れていく様は、レイモン・クノーが「もっとも悲痛な恋愛小説」と呼んだのにふさわしい残酷さを帯びています。

 美少女の胸の中に咲いた水連と、中年男の腹の中の腫瘍ではだいぶ違いますが、僕の病気の免疫的治療法もこれと少し似ていると思います。幸いなことに、僕は感動するための手段が安上がりな人間なので、この小説のような悲劇は免れます。このブログを描いているのも、僕の治療の一環です。読んでくださる方には本当に感謝します。また読んでくださる方のブログを拝見するのも大きな楽しみです。

 最後に、『うたかたの日々』のことを書くとき、有名なまえがきの文章は書かずにはいられません。

「二つのことがあるだけだ。
それは、きれいな女の子との恋愛だ。
それとニューオリンズかデューク・エリントンの音楽だ。
そのほかのものはみんな消えちまえばいい。
なぜって、そのほかのものはみんな醜いからだ」


うたかたの日々 (ハヤカワepi文庫)うたかたの日々 (ハヤカワepi文庫)
(2002/01)
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都市と確率論―コルタサル『石蹴り遊び』、京都、n次元酔歩問題

 「パリを彷徨え、わたしの愛」 これはアルゼンチンの現代作家、フリオ・コルタサルの小説『石蹴り遊び』(1963)の帯に書かれている言葉です。主人公の作家志望の青年と私生児を抱えた娼婦は、待ち合わせもせず偶然の出会いを期待してパリの街を彷徨い、逢瀬を繰り返します。まるでパリの街をゲーム板、自らをその上の駒として偶然が作る物語を楽しんでいるかのような遊戯性がその中には見られます(物語自体は、むしろ痛切なものなのですが)。そして、この小説の構造もまた極めて独創的、遊戯的なものです。物語は155章の細かい断片に分けられ、それを1章から順に読んでいくほかに、作者によって指定された順で読んでいく方法があり、この場合また違った物語が現れてきます。この読み方は、読者自身が無数の断片を組み合わせて、まったく新しい物語を作る可能性をも示唆しています。

 この「放浪」や、「組み合わせ」といったモチーフは、パリの街の形状と関係があるのではないでしょうか。パリはセーヌ川の中州、シテ島を中心に同心円に近い形状で行政区が分けられ、時計回りに番号がついています。道路は数多くの広場から放射状にまっすぐ伸び、幾何学的かつ複雑な模様を作っています。パリに行ったことはありませんが、このような人工的な都市の形状は、そこに住む人の精神に何らかの影響を及ぼすのではないでしょうか。僕は幾何学的な美しさを持つ地図を見ると、あるルールを作ってそれに従ってさすらいたい衝動に駆られます。

 都市の形状は大きく放射型と碁盤型に分類できるそうですが、数学的には放射型が極座標、碁盤型が直交座標(またはデカルト座標)となります。すべての道路が直交し、放射型よりさらに人工的な印象を受ける碁盤型の都市の代表にニューヨークがありますが、ポール・オースターの『シティ・オブ・グラス』(1985)では尾行している男の移動経路をマンハッタンの地図の上に描いたらアルファベットが現れるというエピソードがあります。このような遊びを考えたことがあるという人も多いのではないでしょうか。

 そして日本における碁盤型都市の代表は京都です。京都に来て間もない時のことでした。数学の確率論の授業で酔歩問題(ランダムにn次元空間の中を移動するものの軌跡や、出発点からの距離の期待値等を計算する)を学んでいた僕は、実際に京都の街でそれを確かめたいと思いました。ある日京都市中心部で、交差点に差し掛かるとこっそり小さなさいころを振って1,2なら左折、3、4なら直進、5,6なら右折というルールを決めて歩いてみたことがあります(後退はさすがに怪しまれるのでやめました)。酔歩問題では1,2次元なら必ず出発地にいつかは帰ることができるので(3次元だと、帰れる確率は約34%になります)、どのぐらいの時間で戻れるか試してみたかったのです。

 結果は…。数時間さまよった後、結局どこにいるかわからなくなり(地図を持ってきていませんでした)、タクシーで変える羽目になりました。それでも、その過程で面白そうな店や場所をいくつか見つけ、京都の本当の顔を少し垣間見たような気がしました。京都が僕にとって一種の祝祭空間であるのは、こういった遊戯性を引き出すものを都市の構造が内包しているためかもしれません。

 京都、碁盤の目、遊戯と聞いて、約30年前の名作ゲーム「平安京エイリアン」を思い出したオサーンは正直に挙手(゚д゚)ノ。

物語における気候工学と倫理

 学会発表用のアブストラクトを提出したので、そろそろ僕の現在の研究テーマについて書いておきたいと思います。僕は気候変動の対策として、実施するにせよしないにせよ気候工学の研究が不可欠と考えます。そして、もちろん技術面、経済面の研究も重要ですが、気候工学が全世界の人の同意のもとになされるためには、各地の精神的風土の中で気候工学がどのようにとらえられるかについての研究も重要です。そして、気候工学がまだ本格的に実施されたことのない技術であるため、フィクションの世界、例えば神話、小説、映画などにおいて、人間が気候を操作するという行為がいかにとらえられてきたかを研究する必要があります。これが現在の僕の研究テーマです(まだ始めたばかりですが)。

 前に気候工学の歴史に関する書物として取り上げたジェイムズ・ロジャー・フレミング『気象を操作したいと願った人類の歴史』(2010年)の第一章「支配の物語」は、ギリシャ神話の太陽神ヘリオスの息子パエトンの物語から始まり、ダンテやミルトンといった西洋の古典、トゥエインやジュール・ヴェルヌから現在のSFに至るまでの気象、気候操作の物語を取り上げ、批判的に分析しています。僕はいくつかの日本の小説における気候、気象操作とその背景にある自然観、倫理観を分析し、キリスト教や近代合理主義といった西洋的な精神的土壌から生まれた気候、気象操作の物語と比較することで、二つの文化圏における気候工学に対する考えの違いを明らかにしたいと思っています。そして、その違いに関する認識が、将来気候工学について国際的な合意を得るために役に立つことを願っています。

 僕はこのテーマに関する研究を始めたばかりなので、気候、気象操作を扱った作品、文献やいろいろなご意見をお待ちしています。

4月19日 病気のこと、学会発表、京都

 今日は2週間の休薬期間の後(最初変換した時は、”旧約機関の跡”とでた。ちょっとかっこいい)、TS-1のみの化学療法の2クール目。肝臓の数値は以前どおりで、白血球も回復、血糖値も問題なかったので以前どおりに続けることになりました。白血球がそれほど多くなかったので、薬の量は以前のままです。ちょっと体重が減ったのは気になりますが、それ以外は特に気になることはありません。

 夏の学会発表の申し込みのためのアブストラクトを書き終わりました。チェックの後郵送します。文学作品に描かれた気候工学についての研究で、いずれ詳しく書くつもりです。

 京都のことの続き。以前鴨川の近くに住んでいていた時、よく川沿いをジョギングしていました。IMGP0148s.jpg

犬の散歩をしている人が多く、その中にいつも僕を見つけると吠えまくる小さな犬を連れている人がいました。京都から引っ越しして2年ほどたって、京都に来て写真あたりにあるベンチに座っていたら、同じ犬を連れた人が通りかかり、犬はちょっと戸惑った後、また2年前と同じように吠えだした(´・ω・`)。

 あと学生時代に飲み会をしたときに、遅れてきた後輩に理由を聞いたら、「鴨川で不思議な生き物を見つけ、追いかけていたら遅くなりました」とのこと。みんな「ジブリ映画か!」と突っ込んでいましたが、数日後の新聞で、鴨川にヌートリアというカワウソみたいな外来種が生息しているのが見つかったと報じていました。ほんとだったんだ。

IMGP0167s.jpg

写真は四条木屋町、高瀬川の桜。ライトアップされて、大勢の人が撮影していました。 

ファッション業界こそが持続可能な社会をリードする

 タイトルを見て首を傾げた人も多いでしょう。ファッションとはまさに消費のための消費、つまり新しいものを買わせるために古いものが陳腐化されるものであり、環境にとっての敵以外の何物でもないというのが多くの人の考えるところだと思います。しかし、以下の理由で僕は現在のファッション業界に持続可能な社会実現のカギがあると思います。

 持続可能な社会においては、資源、エネルギーの消費をそれらの再生可能なレベル以下に抑えるだけではなく、人間の経済活動を破綻させないようにしなければなりません。環境が守られても消費が抑制されて経済が停滞し、失業者があふれる世の中になってはいけません。そのためには、エネルギー、資源をあまり消費せず、高い付加価値を持った商品やサービスを開発しなければなりません。

 人間のエネルギー、資源消費は主に衣食住と交通の分野においてです。この中で、衣は消費する資源、エネルギーがかなり(おそらく圧倒的に)少ない分野です。例えば一着のジャケットは結構大きな買い物で、価格は高級なもの(たとえば人気のイタリアのジャケット専業ブランドBoglioliやLardini)だと8~9万円ほどしますが、温室効果ガスは二酸化炭素で5.9kgほどにすぎません。(エコシンク http://www.ecothink.jp/econumber/econumber37.phpより)これは、日本人の1日の家庭排出量とほぼ同じです。また平均燃費の自動車を1時間走らせたらやはり6kgほどですが、その場合消費する自動車のガソリンは3リットルほどで500円程度です(免許持っていないので、憶測で書いています)。同じ温室効果ガスの排出でも、経済効果は100倍以上違います。

 加えて、現在のトレンドが高額でもよい品物を買って長く使うという定番志向になっていることがあります。90年代後半~2005年ほどまでは、ヨーロッパのメゾンブランド(代表的なものはエディ・スリマンのデザインによるDior Homme)がトレンドの中心で、毎シーズン変わるモードなスタイルが主流でしたが、2005年程からニューヨークのトム・ブラウンの台頭によって、アメリカン・トラディショナルの流れが圧倒的になり今でも続いています。

 トラッドは基本的に変化の少ないスタイルであり、そのアイテムはツイードのジャケットや上質なレザーシューズなど、長く使えばそれだけ価値の上がるものが中心です。最近の雑誌にはファッション界の有名人が数十年愛用している靴やコートなどの写真があふれ、定番品の特集が毎月のように組まれています。1つのものを修理しながら大事に使うのは、持続可能な社会での消費スタイルそのものです。ファストファッションの大量生産品を使い捨てにする消費とは真逆のものです。

 そしてこの定番志向は退屈なスタイルになりません。今はスタンダードなものを中心として、その中に今季の流行をいかに取り入れるかが、個人の腕の見せ所となっています。例えば今季のメンズではヴィヴィッドな色やフラワープリントが流行していますが、こういったアイテムをいくつか買い足して手持ちの服に取り入れることで、少ない環境負荷で、流行とスタンダードのバランスのとれた洗練されたスタイルを作ることができます。持続可能な社会においても新しいもの、変わったものに対する個人の欲望や、創造性が抑圧されることがあってはなりません。環境負荷が許される範囲で楽しめばいいのです。

2013年3月の北極圏気温

 NASAが公開している、2013年3月の気温の過去の平均気温からのずれを示すマップが更新されていました。以下のサイトのMAKE MAPの所をクリックしてください。http://data.giss.nasa.gov/gistemp/maps/ 

 以前2月に低温が続いたために北極海氷体積が回復していることを書きましたが、3月は以前どおりの+4度以上の領域が多い極端な高温状態に戻っていました。やはり、2月の海氷回復は一時的なものだったと考えたほうがよいと思います。それに加え、2月に海氷に大きなひび割れが生じているのが気になります。http://neven1.typepad.com/blog/2013/04/on-the-move.html#more 

 これから海氷減少のシーズンに入り、あと2~3か月ごろである程度今年の情勢がわかるでしょう。今後の動向を注視するともに、温室効果ガス削減を可能な限り進めなければなりません。

航空排出についての提案

 昨日大学、学会の航空機利用の温室効果ガス削減に関する提案をまとめ、2つの学会に送り、どちらからも検討するという返事をいただきました。以前の記事にも書いた通り、東京大学を例にとれば大学の温室効果ガスの約1/3が教職員等の航空機利用から排出されていることを考えると、無視できる問題ではありません。今後大学や環境系の学会などにも送ろうと思っています。

 そろそろ前年度に僕が生活から排出した温室効果ガスのオフセットをしようと思い、計算中です。再生可能エネルギーへの移行はお題目になってはいけません。ネットでいろいろ論じてもその効果がどのぐらいか未知数ですが、カーボンオフセットなら確実に何トンもの温室効果ガスを減らしてくれます。率先して自腹を切って意思を示すことで、変革のための意思表示ができると思います。

『涼宮ハルヒの憂鬱』/ムージル『特性のない男』/ファインマン経路積分 2

 大学に入って読んだ本に、このような感覚を扱ったものがあります。20世紀初頭のオーストリアの作家、ロベルト・ムージルの未完の長編『特性のない男』です。主人公の数学者ウルリヒは、現実に存在するものを、存在しないが起こり得る(得た)可能性があるものよりも重視しない、「可能性感覚」といったものを持ち合わせています。彼にとってこの現実は、無限の起こり得た世界の中の一つに過ぎません。そして彼は無数の可能性から一つを選ぶことをより、何者でもない「特性のない男」という可能性の領域にとどまることを選びます(だいぶ昔に3巻まで読んだだけなので、誤解があるかもしれません)。

 このような消極的な人生観に、当時の僕は共感を覚えていました。まだ自分の持つ限界がわからず、傲慢にも無限の選択肢が与えられていると思っていたのも原因の一つでしょう。そういった考えを変えさせたのは、実体験でも文学でも哲学でもなく、ある量子物理学の理論でした。

 リチャード・P・ファインマンが考案した「経路積分」という量子力学の手法があります。量子力学においては、粒子の位置や速度は確定したものではなく、確率的にしか表すことはできません。ここである粒子が状態1(例えば位置x1, 速度v1)から、ある時間が経過した後に状態2(x2, v2)に移行している確率のことを考えます。状態1から状態2への経路は無数に存在します。たとえば同じ速度で最短距離を移動したり、一度x2から離れてから再び近づいたりといったように。そしてこの確率は、ある物理量をその無数の経路で積分したものになります。つまり、状態2である確率には、1から2へ至るあらゆる可能性が含まれているわけです。

 ただ一度の人生では、人は一通りの「物語」しか体験することはできません。しかしそれは、無数の可能性の合算によるものであり、選ぶことのなかった物語もその中に含まれています。これを知ってから、僕は過去しなかったこと、できなかったことを悔やむことはなくなりました。有限の経験しかすることはできなくても、それは無限の可能的経験の中の特別な一つなのです。

『涼宮ハルヒの憂鬱』/ムージル『特性のない男』/ファインマン経路積分 1

「小説が書かれ読まれるのは、人生がただ一度であることへの抗議からだと思います」北村薫のデビュー作『空飛ぶ馬』の背表紙にある著者のあとがきはこの文章から始まります。「ただ一度」の人生、つまり時代のある限られた期間に、個人という有限の存在として不可逆の時間の流れの中で体験する一連の出来事は、一人に一つしか与えられません。男に生まれた以上出産は経験できないし、江戸時代に生まれていれば海外旅行はできないでしょう(その代り、落語や歌舞伎など江戸文化の粋を味わえたでしょう)。

 幼少の時から僕が死について考えていた理由の一つが、この有限性でした。世界の大部分を知ることなく、限られた体験しかすることなく人生を終えることの悔しさ。人気ライトノベルのアニメ化である『涼宮ハルヒの憂鬱』第13話に、ヒロインのハルヒが小学生の時に父に連れられて行った野球場で体験するエピソードがこのような感覚を物語っています。

 初めて行った野球場で大勢の観客を目にした彼女は、父に尋ねてその人数が5万人ほどであると知ります。自分はその中のたった一人の存在であり、その5万人もさらに日本全国の人間の約2000分の1でしかないことに衝撃を受けます。高校生になった彼女はその体験をこう語ります。
「私の世界で一番面白いと思っているクラスの出来事も、こんなの日本の学校でどこでもありふれた事でしかないんだ。日本全国の全ての人間から見たら、普通の出来事でしかない。そう気付いた時、私は急に私の周りの世界が色褪せたみたいに感じた。 . . . そして、世の中にこれだけの人がいたら、その中には普通じゃない面白い人生を送っているひとがいるんだ。そうに違いないと思ったの。それが私じゃないのは何故?」

 僕も小学生の時にこれと同じような体験をしたことがあります。確か小学校5年生の時、サマーキャンプで山奥の小学校でほかの学校から来た生徒たちとくじ引きでグループに分けられ、グラウンドでテントを張って宿泊しました。夜に校舎の中のトイレに行き、グラウンドに帰ってきたとき多くのテントが並んでいるのを見て、「今回はたまたまこちらのテントの中の人たちと一緒だったけど、別のくじを引いていればほかの人と一緒だっただろう。そうだったらまったく別の出会いがあり、もっと面白いことが起こっていたかもしれない」と考えました。

大学教職員、学生の航空温室効果ガス

 大学は気候変動やエネルギーの先端的な研究の場であるため、他の場所よりも温室効果ガスの規制を進めているところが多いと思います。僕の勤めている大学でも、エアコンの温度調節やリサイクルなどを行っています。しかし大学の環境報告を読んでみても、「航空」の文字はありません。大学教職員や学生が学会出席等、出張による航空機利用によって排出する温室効果ガスはどのぐらいでしょうか?

 東京大学がこれについて調査をしていたので、それを基に考えてみます。報告書はhttp://www.ags.dir.u-tokyo.ac.jp/suscam の「キャンパスにおけるサステイナビリティ評価手法の体系化」からダウンロードできます。

 報告書5ページ図-3、表-3によると、平成18年度における東京大学の学内でのエネルギー利用(電力、ガス、重油)から排出された温室効果ガスは合計138,631トン、学外(航空、鉄道)からは23,899トンでした。出張、会議出席などでの航空機利用によるものは23,176トンですが、それをRFI=2.7で地上での二酸化炭素に換算すると62,575トンとなり、学内の放出量の約45%にも及びます。大規模な実験設備や大型コンピューター等を有する東京大学は、他の大学よりキャンパス内の放出量が多いと予想されます。それに対しての45%ですから、文系が中心の大学だと航空機利用の排出量の割合はさらに増えるでしょう。

 大学の研究者は分野にもよりますが、海外の学会出席などで他の職業の人よりも航空機の利用が多い傾向にあります。教職員は大学の費用で、学生でも補助金が出たりするので、無料もしくは普通よりも安く海外に行くことができます。教職員の中には、学会に家族同伴で出席する人もいます。もちろん社会のために重要な研究のために出席することは大事なのですが、国際学会をもっと簡単に、環境負荷を下げて参加することができるように、テレビ会議のような方法を導入することはできないのでしょうか。

航空機温室効果ガス問題の難しさ

 本日、僕も授業を担当している大学の「国際英語プログラム」の説明会で、授業の説明の後に北極圏の現状とカーボンオフセットについて話させてもらいました。このプログラムに参加する学生は海外渡航を希望している人が多く、その際に大量に排出することになる航空機の温室効果ガスについて知ってもらいたいと思ったからです。プログラムに不利になるにもかかわらず、発表を許可してくださった担当の方に感謝します。

 ですが、結果は残念なものでした。貴重な機会なので充分に準備をして臨んだのですが、僕の前に授業説明をした二人の外国人講師がだいぶ時間を取ったことなどで、僕の発表の時には終了予定時間を超過していました。昼休みだったため、時間がない学生は帰ってよいと言ったのですが、一番前に座っていた外国人講師が早々と席を立ち、また多くの学生が帰り支度を始めたため、残っていた3分の1ほどの学生に説明している時には騒音でろくに発表が聞き取れない状態でした。それでも聞いてくれた学生には感謝します。説明会の前に、内容をまとめたハンドアウトを配布してもらったのですが、どのぐらいの人がそれを読んでくれたのでしょうか。

 僕はある程度はこの結果を予測していました。航空機の温室効果ガス問題は、環境団体ですら一種のタブーとしているように感じていたからです。過去にいくつかの環境団体の人にこのテーマを提案して、黙殺されたり皮肉を言われたりしたことが何度かあります。ましてや、英会話という航空機がなければほとんど成り立たないものを学んだり教えたりする人たちにとってはなおさらでしょう。

 この問題がタブー視される理由として、航空機の排出規制はビジネスとして成り立たないことが考えられます。自動車や住宅などの分野では、ハイブリッドカーや太陽光発電などの推進により、環境に貢献すると同時に利益を上げることができます。しかし、航空機はハイブリッド化や電気化がほぼ不可能です(航空機にはブレーキがないため。また電気飛行機はセスナレベルが限界)。ボーイング787は20%ほど燃費の良い航空機として期待されていましたが、多くの不具合によりいつ飛行が再開されるかわかりません。

 しかし、ビジネスにならないから、誰も得をしないからと言って無視してよい問題でしょうか。世界の航空機による温室効果ガスは、年増加率5%(東京大学岡野まさ子准教授の資料より)として計算すると、RFI=2.7で計算して2013年現在年間26億トンにも及びます。これはアメリカの年間55億トンの半分で、ロシアやインドの排出量の二倍となります。2025年には40億トンと予想され、地球が吸収できる実質90億トンの約半分となります。

 「国際化」はほぼ無批判に正しいこととされ、それに異を唱えることは多くの人の批判を呼びます。僕も他国の人との交流や、外国文化に直接触れることはとても大事だと思います。しかし、その負の側面は見て見ぬふりをされています。子供に借金を残して海外旅行に行っている大人が国際化と言っても、その言葉に説得力はありません。その借金が、温室効果ガスという目に見えないものであっても同じはずです。 

4月8日 京都のこと

京都の記憶が薄れないうちに書いておきたいので、今日の日記も京都について。

 ヘミングウェイがパリでの修業時代について書いた『移動祝祭日』のタイトルは、晩年の彼が若い友人に言った言葉から採られています。「もし幸運にも、若者の頃、パリで暮らすことができたなら、その後の人生をどこですごそうとも、パリはついてくる。パリはa moveable feastだからだ」(『移動祝祭日』新潮文庫p.327)。これはパリの姉妹都市、京都についても言えるのではないでしょうか。

 文化や歴史が、空気のように自然とその中に溶け込んでいる街。モラトリアム期間にいる大学生や、観光客という、社会のシステムから一時的に離れている人種が主役になれる街。薄暗い喫茶店、無愛想な店主の古本屋、聞いたこともない監督の映画の上映会など、どんなところでも、新しく面白いものや人との出会いが待ち構えているような気がする街。京都での生活のことを考えると、イタリアの作家チェーザレ・パヴェーゼの『美しい夏』の冒頭を思い出します。

「あのころはいつもお祭りだった。家を出て通りを横切れば、もう夢中になれたし、何もかも美しくて、とくに夜にはそうだったから、死ぬほど疲れて帰ってきてもまだ何か起こらないかしら、火事にでもならないかしら、家に赤ん坊でも生まれないかしらと願っていた…」
(『美しい夏』(河島英昭訳)岩波文庫の冒頭。今見つからないので、何ページかわかりません)

最初の写真は鴨川デルタ。亀の形の石は、アニメ『けいおん!』でもおなじみ。IMGP0127s.jpg

次は左京区北白川疎水。春は桜、夏は蛍がきれいです。IMGP0164s.jpg

伝説のバー、MICKの跡地。もう一度行きたかった。2012-11-10.jpg

続きはまた今度。 

北極圏の新たな正のフィードバック

 北極圏に関する情報を紹介しているブログ、Arctic Sea Ice Blogが、北極圏の気温上昇を加速する可能性のある新たな正のフィードバックについて紹介しています。北極圏の正のフィードバックとしては、これまで氷雪フィードバック(気温上昇→海氷が溶ける→日光を吸収する海面が広がる→さらなる気温上昇)や、メタンのフィードバック(気温上昇→凍土の融解によるメタンの放出→さらなる気温上昇)などが知られていましたが、新たなものとして、気温上昇→北極圏の森林の増大→日光の吸収の増大→さらなる気温上昇というフィードバックが予想されています。http://neven1.typepad.com/blog/2013/04/a-drastically-greener-arctic-to-come.html

 Nature Climate Changeに発表された論文によると、数十年の間に森林面積が50%ほど増大すると予想されています。元の論文を読んでいないのでわかりませんが、おそらくこの変化による放射強制力の変化も大きなものになるのではと思います。森林が増すると二酸化炭素吸収も増加しますが、その影響を上回るから正のフィードバックとして考えられているのでしょう。元の論文のabstractは次の通りです。http://www.nature.com/nclimate/journal/vaop/ncurrent/full/nclimate1858.html

4月6日

 来週から授業が始まるのと、カーボンオフセットについて学生に説明するための資料作りのため、あまり時間が取れず、以前予告していた内容はもう少し先になります。申し訳ありません。

 代わりに京都のことを少し。写真は以前住んでいたところの近く、BAR探偵。

2013-04-03tantei.jpg

 映画監督で、京都造形芸術大学教授の林海象氏がオーナーの店です。『私立探偵濱マイク』シリーズで有名な方です。外見に劣らず怪しい雰囲気の店と聞いていたので興味がありました。しかし住んでいたマンションにかなり近かったため、お店の人に顔を覚えられると、だらしない格好で近所をうろついているところを見られたら恥ずかしい、と思って入ったことはありませんでした。今回こそ、と思っていたら、準備中だったorz.

2013年3月の海氷体積、その他

ワシントン大PIOMASの最新の海氷体積情報が更新されました。http://neven1.typepad.com/blog/

piomas2013april.png

 前回と同様に、海氷体積は二月から三月にかけて回復し、去年と同レベルにまで達しています。この理由として今年初頭のの北極圏の気温が低かったことは前回にも述べましたが、それはNASAの地上温度の観測データからも明らかです。http://data.giss.nasa.gov/gistemp/maps/ (MAKE MAPのところをクリックしてください)

 北極圏のかなりの部分が平均気温より-4℃~-6.1℃を示す紫のエリアとなっています。僕も数年このマップは見ているのですが、たいていは平均より数度高い赤や茶色であることを考えると、今年2月の北極圏の気温はかなり異常です。北極圏に関する情報を提供しているサイトArctic Sea Iceでは、ボーフォート海の氷に巨大な亀裂が入って、それが風により移動しているアニメーションを紹介しています。

 今回の海氷の回復は、気温の上昇が止まったことが理由ではなく、北極圏の気象条件が大きく変わったことによっておこったものと考えるのが適切なように思います。この低温状態がこれからも続くのかはわかりませんが、急激な気温変化に伴う異常気象が起こらないことを願うばかりです。

4月3日 京都のこと

 今日帰省&京都旅行から帰ってきました。疲れているので、この前の予告について書くのは明日以降になります。申し訳ありません。京都についてもあとでゆっくり書きたいので、今日はこの店のことだけ。

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全国の本好きにとっての聖地、けいぶん社書店一乗寺店。雑誌などでの紹介も多く、イギリスのガーディアン紙のThe world's 10 best bookshopsで9位と、世界的にも有名な書店です。お店の内装、本のセレクト、配置などの要素が、何時間でも居たいと思わせる雰囲気を作っています。特に入って右奥の幻想文学の棚が好き。

 ここでアルバイトを募集していた時に応募して落ちたことがありますが、その時の競争率は15倍だったそうです。その次の回は、バイト希望者に小論文の提出が課せられたような記憶が。

 今回は数年前に紛失して、買いなおそうとしたら絶版になっていたフェルナンド・ぺソアの詩集を発見。けど荷物がいっぱいだったので断念しました(´・ω・`) 。
プロフィール

大熊座から来た男

Author:大熊座から来た男
HNは池澤夏樹『スティル・ライフ』より。
ブログ名は、ツンデレ美少女風に読んでください。
CV:今井麻美、斎藤千和推奨。

膵腺房細胞癌という非常に珍しい病気と闘いながら、気候変動(特に北極圏問題)や気候工学(ジオエンジニアリング)について学んだ情報を発信していきます(体調不良のため、最近は闘病ブログになりつつあります)。気候学は独学で勉強中なので、いろいろとご指摘お願いします。

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