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3月29日

 今日はTS-1のみの化学療法の第1クール最後の診察日。白血球の減少は少なかったので、次回からは抗がん剤の量を増やしても大丈夫かもということ。副作用もほとんどありません。CTの検査は第2クールが終わってから。

帰りに散歩して、桜の写真撮ってきました。まだ咲きはじめで見ごろは来週になりそう。
写真は初心者なんで、もっと練習します(´・ω・`) 。

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 明日から実家に帰って、京都に寄ってから帰るので、次の更新は来週の水曜以降になります。次回予告:ムージル『特性のない男』/『涼宮ハルヒの憂鬱』/ファインマン経路積分。来週も、サービス、サービスぅ。
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『グスコーブドリ』と『グスコンブドリ』

 宮沢賢治の『グスコーブドリの伝記』は、20世紀初期にいち早く火山の人工噴火による二酸化炭素の放出という気候工学や、人工降雨による施肥のような気象工学を描いている、おそらく世界的にも珍しい先駆的な作品です。二度もアニメ化されるなど、作品としての知名度が高いにも関わらず、この作品がもともと『グスコンブドリの伝記』として書かれ、改稿されたことはあまり知られていません。『グスコンブドリ』は宮沢賢治学会イーハトーブセンターが、以下のウェブサイトで公開しています。
http://why.kenji.ne.jp/kohon/1002gusukon.html
 
 『グスコーブドリ』を読んだ多くの人が抱く感想として、作者が後半部分を書き急ぎすぎていて、作品のクライマックスである人工的な火山の噴火の部分が十分に描かれていないというものがあります。『グスコンブドリ』では、ブドリとクーボー大博士の会話の部分が『グスコーブドリ』より長く、かつて窒素肥料の件でブドリに暴行した男たちが改心し、火山まで同行する場面が追加されるなど、本来はよりしっかりと描かれていたことがわかります。

 その相違点の中で、特に印象的なものが、クーボー大博士から、火山の人工噴火を実行する最後の一人は、噴火から逃れられないことを聞いた時のブドリのセリフ、「私にそれをやらせて下さい。私はきっとやります。そして私はその大循環の風になるのです。あの青ぞらのごみになるのです。」です。『グスコーブドリ』では、このセリフは「先生、私にそれをやらしてください。どうか先生からペンネン先生へお許しの出るようおことばをください。」というものであったことを考えると、もともとは人工噴火という行為に、自然による自身の浄化や自然との合一という色合いが付加されていたことがわかります。ほかの賢治の作品だと『よだかの星』の結末を思わせるものであり、この行為の象徴性、精神性をより高めるものと思われます。

 このテーマについては、より詳しく考えてみたいので、いずれ残りの部分を加筆します。

北極圏に対する気候工学

 おそらく今最も積極的に北極圏に対する気候工学の必要性を主張している団体が、Arctic Methane Emergency Group (AMEG) ですが、ここがウェブサイトで公開している北極圏メタンに関する小冊子に、その方法がまとめられています。以下、その要点をまとめます(数か月前、AMEGに翻訳許可を得るためにメール送ったけど、まだ返事が来ない)。AMEGのサイトの右上、CLICK HERE DOWNLOAD PDF BOOKLETよりダウンロードできます。
http://www.ameg.me/

 まず北極圏の温度を低下させる方法。これはSRM (solar radiation management) と呼ばれるもので、以下の3つに分類されます(小冊子 p.11 Cooling Techniquesより)。
・ 太陽光を反射させるための成層圏エアロゾル注入
・ より太陽光を反射させるための、雲の増白
・ 熱放射を宇宙空間に逃がすための雲の除去
これ以外にも、泡を注入して海面の反射率を増加させる、秋と冬に海氷を砕き、海氷の厚みを増して多年氷のようなものにする(なぜ厚みが増すのかは書かれていません)が、p.13に紹介されています。

 またメタンの放出を防ぐための方法も紹介されています。天然ガスを採るための方法は、不安定な海底の永久凍土に対してはリスクが大きいので、メタンを分解する微生物を酸素と栄養とともに注入する、フード状のおおいやビニールシートを使って回収するなどがあげられています(p. 13~14)。空気中に出たところを燃やしてしまう、または大気中から回収するという方法は、あまり現実的なものではないそうです。

 どの方法を使うにせよ、これらの対策が十分な効果を発揮するためには、海氷の消滅前に行うべきだと思われます。海氷消滅後は気温、海水温共に急速に上昇することが予想されるので、それに対応するためにはより大規模な介入が必要となるからです。AMEGは海氷消滅を2015年9月と予想していて、そのための対策を取るように各国の指導者に請願書を送っているようです。

 実際に気候工学を用いるかどうかはともかく、その効果、コスト、リスクに対する十分なシミュレーションは早急に行われるべきです(たとえばエアロゾル散布なら、どのぐらいの量を注入し、温度低下がどのぐらい見込まれ、その北極圏の大気の状態に対する影響はどのぐらいか)。素人の僕の考えでは、エアロゾルだと気流に流されて効果が拡散するように思えるので、海氷面の反射率を何らかの手段で改善するほうが、大気状態に対する影響も少ないのではないかと思いますが、専門の方の意見をお聞きしたいです。

鴨川と Wondering up and down / PSY・S

 今週の週末、実家に帰省するのですが、その帰りに京都に一泊してきます。大学入学から15年以上を過ごした京都、特に左京区は僕にとってもう一つの故郷ともいえる場所です。左京区での生活を語るうえで欠かせないのは、鴨川(または、賀茂川と合流して鴨川となる高野川。Yの字の右上の部分)の存在でしょう。鴨川の広い土手は本とコーヒーを持って行って読書、昼寝、ジョギングやトレーニング、犬の散歩、劇団や合唱サークルの発声練習、今は禁止されているのですが、花火やバーベキューなどに使われてきました。そこは左京区民にとっての生活の一部です。

 僕に鴨川の魅力について教えてくれたのは、高校時代に同じ寮にいたF君という、京都出身の少し大人びた感じの同級生でした。京都という街は、ある程度の都会でありながら街の中に美しい川が流れ、糺の森という原生林もある素晴らしいところであると。そして大学入学後に初めて鴨川に行ったときに思い出したのは、彼がCDを貸してくれたのがきっかけで聞き始めた、PSY・Sという80年代半ば~90年代まで活躍した日本のミュージシャンのWondering up and down ~水のマージナル という曲です。

 この曲はアルバムAtlasの1曲目に収録されていて、ファンの中で最高傑作と言われることも多い曲です。川のせせらぎを思わせるイントロから始まり、幻想的でノスタルジックなメロディーにのせて、水、川、湖をモチーフとした歌詞がのびやかに歌い上げられるこの曲は、初夏の鴨川を見ると、よく頭の中に流れていたものです。作曲の松浦雅也は京都の立命館大学の出身なので、もしかしたら(少し立命館からは遠いですが)、鴨川のことをイメージしていたのかもしれません。京都に行って鴨川沿いを歩くことがありましたら、その前にぜひこの曲を聞いてみてください。

 余談ですが実はこのアルバム、僕の2つめの専攻である現代アメリカ文学とかかわりがあるようです。Wondering ~ の歌詞は(著作権の関係で引用できませんが)、目に見える事物を列挙するという、ウォルト・ホイットマンのカタログ手法を連想させ、おまけに歌詞の最後にホイットマンの代表作『草の葉』の名前まで出てきます。収録されている曲には、他にも「遠い空」(サビが「遠い~、遠い~」で、カポーティの『遠い声遠い部屋』を思わせる。雰囲気も良く似ている)、「引力の虹」(ピンチョン『重力の虹』、ライナーノーツにピンチョンの名前が出てくる)があり、また「Stratosphere~真昼の夢の成層圏」は池澤夏樹のデビュー作『夏の朝の成層圏』を意識していると思います。

北極圏メタンとその影響

 北極海氷の減少の及ぼす影響の問題の一つに、それによるメタンに代表される温室効果ガスの放出が挙げられますが、それでは実際に今、どこで、どのぐらいのメタンが放出され、その影響はどのぐらいになっているのでしょうか?

 メタンの放出は、北極圏のメタン濃度の上昇として観測されますが、Arctic Newsというブログで紹介されている、Dr. Leonid Yurganovの作成した図が2013年3月の最初の10日間の北極のメタン濃度を示しています(情報はhttp://arctic-news.blogspot.jp/2013/03/record-methane-in-arctic-early-march-2013.html を元にしています。The following is based on Arctic News's article. 管理人のMr. Sam Caranaの作成した画像の引用許可はいただいたのですが、他の人はまだなので、今は引用できません。 I haven't gained the permission to use Dr. Yurganov's figures and graphs, so I cannot quote them.)。

 1枚目と3枚目の図の赤いところがメタン濃度の高いところで、最大1930ppbに及びます(メタン濃度は、2011年で世界平均約1813ppb(温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)より)。2枚目の図のグラフは、3枚目で1~4と分けてあるエリアそれぞれのメタン濃度のグラフで、1であるバレンツ海およびノルウェー海の濃度が急増していることがわかります。

 元の記事の要点は以下の通りです。 The following is the summary of the original article.

・バレンツ海、ノルウェー海で2007年の観測開始以来、メタン濃度が最高になった。
・特定の日時、場所ではメタン濃度は最大2237ppbにも及んだ。
・メタン濃度の高いエリアは、地表と海氷に囲まれた領域(海水面)にほぼ一致している(アニメーションを参照)。
----------------------------------------------The summary ends here.--------------
 次にこのメタン濃度が放射強制力に及ぼす影響について概算してみたいと思います。もちろん、複雑な気象現象を数個のパラメーターのみで評価することが不可能なことは承知していますが、その影響が無視できないレベルにあるかどうかぐらいは示せると思います。2011年の放射強制力を基準にして、それからの変化を計算してみます。

 以前の記事で書いた、メタンの放射強制力に寄与するΔFの式に、北極で観測されたメタン濃度M=1930(ppb)、2011年の平均メタン濃度M0=1813(ppb)、一酸化二窒素の平均濃度N0=324(ppb)(数値は気象庁のサイトより)を代入すると、ΔF=0.048(W/m^2)となります。人為的放射強制力が約1.6W/m^2であることを考えると、現時点でその3パーセントになります。

これがどのぐらいの気温上昇につながるかは、パラメーターやモデルによってだいぶ違ってくると思いますが、メタン濃度が上昇傾向にあることを考えると、現時点で0.048W/m^2というのは無視できないと思います。対策を急がないと、北極海氷は大気中の温室効果ガス上昇と、海水温の上昇という両側からサンドイッチされた形で薄くなっていくのではないでしょうか。

3月22日

 今日は病院で血液検査。以前より問題になっていた白血球の減少が少なかったので、飲み薬のTS-1による治療は継続してできるようです。僕の場合、点滴のジェムザールが、おそらく白血球を大きく減らしていた原因だったようです。肝臓の数値も、特に悪くはなっていなかったです。今後TS-1がより効いてくれるように、生活面に気を付けて免疫力を上げていきたいと思います。

 病院の帰りにお寿司食べてきました( ゚Д゚)ウマー。

 最近はあまり更新できていないので、明日は北極圏のメタン濃度の最新情報と、その影響について更新したいと思います。

温室効果ガスと放射強制力

(間違いがあれば、ご指摘お願いします)
 
 放射強制力については、気候工学のところで一度書きました。簡単に言うと、大気の単位面積当たりのエネルギー収支のことで、これが正になると気温が増加します。しかし、それはたとえば温室効果ガスが2倍になるとそれに比例して2倍となるというように、単純な関係にはありません。例えば、代表的な温室効果ガスである二酸化炭素とメタンとでは異なる挙動を示します。そして、それが僕が北極圏に注目している理由の一つです。

 いわゆる「温暖化懐疑論」の主張の一つに、二酸化炭素の赤外線吸収の飽和というものがあります。二酸化炭素は地表より出る赤外線を吸収して、それを原子間の運動にすることで温室効果を持ちます。そして、その吸収できる赤外線は波長が15μmのものですが、すでに大気中の二酸化炭素がその波長の赤外線をすべて吸収しているので、これ以上二酸化炭素が増えても気温は上昇しないというものです。

 これにはすでに反論がなされていて、分子同士の衝突や、移動によるドップラー効果によって15μmの前後の波長も吸収されます(たとえば、『光の気象学』(柴田清孝,1999)p.64~67参照)。ですが、その吸収は中心となる15μmのものよりも小さいため、二酸化炭素が多くなるにつれ、温室効果の増加が鈍るとされています。

 これに対し、メタンの吸収する波長7.6μmはまだ飽和しておらず(『光の気象学』p.56 図4.3参照)、またメタンは成層圏で酸化分解するときに水分子を、大気中でOHラジカルと反応してオゾンを生成します(『大気水圏科学からみた地球温暖化』(半田暢彦編,1996)p.105より)。これにより、メタンはまだ十分に温室効果を発揮する余地を残していると考えられます。

 IPCC-WG1 (1990)がこの2つの気体の放射強制力として採用した式は、以下のようになります。(ΔFは放射強制力の変化)(『大気水圏~』p.29 表2.2.2より)

CO2 : ΔF=6.3ln (C/C0) , C<1000ppmv (ppmvはppmのこと。CはCO2濃度、C0は変化前の濃度)

CH4 : ΔF=0.036(M^1/2-M0^1/2)-(f(M,N0)-f(M0,N0)) (M,NはCH4, N2Oの濃度で単位はppb, fは対数の関数で、wikipediaなどに詳細あり)

これを見ると、今後の二酸化炭素の増加は対数的に、メタンの増加は平方根に比例して放射強制力に寄与することがわかります。それぞれのグラフを書いてみると、その増加傾向の違いがよくわかります(CO2のほうが速く増加が鈍る)。つまり、今後は二酸化炭素の増加を抑えることも大事ですが、過去の二酸化炭素排出による温度上昇で、自然界(特に北極圏)から排出される恐れのあるメタンを封じ込めることの重要性も高まっていると思います。

がん治療と科学技術の倫理

 僕の病状の大きな問題として、がんが膵臓から肝臓へ転移しているので手術や放射線療法ができないことがあります。肝臓への転移は全体に散らばっているので、放射線を全体にあてるわけにもいきません。僕の希望としては、化学療法で肝臓への転移を抑えてから、膵臓への放射線療法を始めてもらえたらと思っています。

 実は、これは結構皮肉な状況です。原子核物理学を専攻していた僕が英文科に学士編入した理由の一つに、実験で放射線を浴びたくないということがあるからです。原子核物理学の実験では加速器を用いるため、陽子線や中性子線などの被ばくが起こります。それはそんなに大きな量ではないのですが、やはり線量計や血液検査などで被ばくの程度をチェックしながらの研究はあまり気持ちのいいものではありませんでした。しかし、今では僕は一刻も早く放射線をがんに照射してもらうことを望んでいます。

 科学技術はそれ自体では善でも悪でもありません。放射線はがんを引き起こす可能性を高めると同時に、がんを治療するためにも用いられます。ある技術が用いられるのが人間に対してでも、地球環境に対してでも、大切なのは何が用いられるかより、それがいかに適切に用いられるかです。医学では一人の人間の命を救うために、物理的、化学的、生物的等あらゆる手法が用いられます。それと同じく、地球環境が人間の生存にとって適さなくなる場合、それをもとに戻す効果が期待できる手法ならどんなものでも用いられるべきだと思います。

3月15日

 今日は病院で、これからの治療方針について話し合ってきました。友人が教えてくれた動注療法(血管から直接肝臓に抗癌剤を送る)は、確かにうまくいった例はあるけど、僕の場合は肝臓への転移がそれほど大きくないことと、それと同時に行う全身化学療法の抗癌剤を減らすことになる可能性があるということでした。選択肢としてはあり得るということなので、今は現在の内服のみの化学療法を続けて、約一月後のCTの結果を見て今後どうするか判断することになりそうです。

 僕の病気は本当に症例が少なく、手探りの治療になりそうです。しかし、それは効果的な治療がある可能性も残っているわけなので、自分でも情報を集めて治療に全力を尽くします。

 昨日Boichiのことを書いたので、エネルギー問題をテーマにしたBoichiのH・E the HUNT for ENERGY2巻(集英社)のp. 84~85 より。かつて太陽光発電の権威だったが、今は研究を放棄し文明を捨て自給自足の生活を送る大学教授に対し、次世代エネルギー事業部、通称エネルギーハンターの主人公のせりふ。
(教授と同じ道を選ばないのは)「文化のためです」 「人類がエネルギーを基盤にして誕生させた文化は…」
「美しくて尊くて楽しいことが詰まっています 私はその文化を守りたいだけです」
「そのための私たちの目標はたったひとつ」「クリーンで豊富なエネルギーを供給する道を探すことです」

 仕事や発表の準備など、少し忙しくなりそうなので、これから少し更新のペースを落とす予定です。週3回ほど更新できればいいと思います。

漫画 『Boich 作品集 HOTEL』

Boichi 作品集 HOTEL (モーニングKC)Boichi 作品集 HOTEL (モーニングKC)
(2008/10/23)
Boichi

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 2006年の初夏、英文科の大学院生だった僕は、夕食を食べようと下宿の近くのカレー屋に入りました。カレーができるまでの間、置いてあった雑誌から時々読んでいた週刊モーニングを手に取ると、聞いたことのない作家の読み切りが目に留まりました。たった数ページで圧倒的な画力と緻密な科学的考証で引き込まれ、運ばれてきたカレーにも手を付けず読み終わった後しばし呆然としていたのを覚えています。後に作者が物理学を専攻した後に大学院では映画を専攻という、僕と似ている経歴だったことがわかり、妙に納得しました。それが、『Boichi 作品集 HOTEL』(Boichi 2008年、講談社)の表題作「HOTEL -SINCE A.D. 2079」(p.3~44)です。

 近未来、温室効果の暴走により地球が金星のような超高温の惑星になることが確定した時、2つの計画が実行されます。一つは何光年もかなたの人類が生存できるかもしれない恒星系に、人類のDNAと文明の記憶を運ぶ宇宙船「方舟」を作ること。もう一つは若手研究者の提案によるもので、南極に人間以外の生物種のDNAを保存する巨大な塔、のちに「ホテル」と呼ばれるものを建設すること。以下せりふより引用。

「地球環境が回復する可能性はなく 貯蔵されたDNAが発現する可能性もありません」「塔の目的はただ……」
「『責任』を負うことです 人類が犯した罪の責任を…… ということです……」(『HOTEL』 p.8~9)引用ここまで。

 「ホテル」は完成し、その管理は人工知能「ルイ」に任せられます。「方舟」は14万人のDNAを搭載して旅立ち、気温の上昇による海面上昇は、地上のほとんどの生命を飲み込み(ルイ・アームストロングのWhat a Wonderful Worldが鎮魂のように流れる中、水没していく世界を描く数ページは圧巻)、その後海洋の蒸発により生命が存在しない永遠の荒野が訪れます。何万年もの間自己修復を繰り返し、DNAを守り続けてきた「ルイ」が最後に出会ったのは?この先は自分で確かめてください。

 生命のいない地球の静寂のことを考えると、言いようのない苦しさに胸が締め付けられます。地球が金星化するほどの暴走温室効果は可能性が少ないとされていますが、例えば北極圏についてはそのポジティブ・フィードバックと言われる悪循環がすでに起こっていると主張する研究者もいます(また別の記事で書きます)。すべての生物が死を免れないのと同様に、おそらく人間という種やその生み出した文明も永遠ではありません。しかしそれを終わらせるのが僕たちの世代であることは許されないはずです。

2013年2月の北極海氷体積

 ワシントン大極地科学センターのPIOMAS (the Pan-Arctic Ice Ocean Modeling and Assimilation System)による、2013年2月の北極海氷体積値が発表されました。(画像はArctic Sea Ice Blog http://neven1.typepad.com/blog/2013/03/piomas-march-2013.html#more より掲載許可をいただいています)

piomas-2013-3.png

赤い線が今年の体積です。1月上旬は去年より1000km^3ほど少なかったのですが、2月半ばには回復して去年とほぼ同じになっています。掲載元の記事では、過去数週間の温度が低かったことがおそらく回復の原因だろうと推測しています。

 ただあまり楽観視はできないと思います。去年も冬場の体積は2010年とあまり変わらなかったのですが、夏は大きく減少して最少記録を更新しました。またPIOMASは最近では誤差がそれほど大きくないとされていますが、やはり不確実な要素は大きいと思います。長期トレンドで見れば、海氷体積の減少傾向は今の状況を大きく変えない限り続くと思います。

気候工学とコスト

 気候変動の抑制にはコストの問題が深くかかわっていますが、気候工学にも同じことが言えます。気候工学とコスト(経済的コストと、人的、物質的コストの両方を含む)の関係において、大きく問題となるのは、それが高すぎる場合と、安すぎる場合の両極端です。これには多くの人が疑問を抱くでしょう。高すぎる、は理解できるが、なぜ安すぎることが問題となるのでしょうか?

 その前に、強制放射力(W/m^2)という数値のことについて説明します。これは、単位面積当たりどのぐらいの放射エネルギー(太陽光や、地表面での反射)が地球に出入りしているかを表している量で、プラスの場合は入射するエネルギーが大きい(温度が上昇する)、マイナスの場合は放出されるエネルギーが多い(温度が下降する)となります。現在は約1.7W/m^2であり、気温は上昇傾向にあります。

 まず、コストが高すぎる場合を考えます。気候工学はSRM(太陽放射管理)とCDR(二酸化炭素除去)の二つに分類されることは述べましたが、そのうちのいくつかの技術は天文学的なコストを必要とします。(これより『気候工学入門』(杉山昌広, 2011年)のデータを引用しています)まずSRMの場合、例えば宇宙太陽光シールドという宇宙空間に太陽光を反射するシールドを打ち上げ、それで地表に達する太陽光を弱める方法があります。しかしこのSF的ともいえる方法は、放射強制力を1W/m^2下げるのに年間約5000億円の費用がかかるうえに、何万回ものロケットの打ち上げが必要とされます(p.62, p.106 表7-3)。CDRでも、直接空気から二酸化炭素を回収する技術を用いると、人によって評価は分かれますが、Keith et al. (2006)の論文では、1tの二酸化炭素の回収に136$もの費用が掛かります(p. 109 表 7-4)。

 ではコストが低くて問題となるのはどのようなケースでしょうか?たとえば、SRMの中で最もポピュラーな技術の一つに、成層圏エアロゾル注入と呼ばれる、航空機で硫黄酸化物(SOx、大気汚染物質でもある)を散布する方法があります。この方法のコストは、1W/m^2下げるのに年間200億円(p.106 表7-3)と、F-15戦闘機約2機分の価格です。また、CDRでは、最も安価な技術として鉄散布による海洋肥沃化(海に鉄を散布することでプランクトンの光合成を促し、二酸化炭素を吸収する)がありますが、これはある見積もりでは二酸化炭素1tあたり0.1~15$で可能であり(p.108 表7-4)、すでにいくつかの民間企業が実験的にそれを行っています(p.90 表6-2)。一企業や一個人が地球の気候に干渉できる技術を持つことが、どのような危険をもたらす可能性があるか想像に難くありません。

 このように気候工学に関しては、ある種の技術はコストが高すぎる点で、差し迫っている気候変動の危機に対して現実味を欠き、また別の種の技術は安価で手軽であるがゆえに、その影響が不確かな段階で、気候変動の状況に焦りを感じた団体や個人などによって実行される可能性があります。気候工学においては、ある対策を実行した場合としない場合のそれぞれのリスクを天秤にかけ、冷静な判断を下すことが重要になるでしょう。

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(やり方がいまいちわからないけど、これでいいのだろうか?)

気候変動とエネルギー問題 2

 ここで文章の主旨から離れますが、エネルギーを使うときに生じる気候以外の損害について考えてみましょう。以下は「表1 1970年から1992年のエネルギー生産業における死者の状況」(ジェームズ・ラブロック『ガイアの復讐』p.175)からのデータです。

燃料                石炭    天然ガス   水力    原子力

死者               労働者  労働者と 一般市民 労働者
                        一般市民    
死亡者数              6400   1200    4000     31

テラワット年あたりの死者    342     85       883        8

 たとえこの数字が原子力の被害を過小評価しているとして、その100倍被害があるとしても、その被害は再生可能エネルギーである水力発電と変わりません。

 個別に被害を見ていくと、石炭の場合は現在も多発している落盤事故と、中国で問題となっているような大気汚染による呼吸器病が挙げられます。環境NGO、グリーンピースの報告によると、「12年にPM2・5に関連して死亡した人は8572人」だそうですが、http://mainichi.jp/feature/news/20130304ddm007040055000c.html さらに多いとの推測もあります。

 石油や天然ガスについては、世界で起こる戦争、紛争の多くにこれらの資源が関係していることを考えると、その戦争の犠牲者は、主に先進国に住む僕たちのエネルギー消費の犠牲者でもあるでしょう。再生可能エネルギーでも、水力発電はダムの決壊の可能性があり、風力は低周波音で周囲の人の健康を害し、太陽光発電でも取り付けの際の事故で亡くなる人がいます。

 エネルギーを利用することは、人間にとってものを食べることと同様、生きる上で何かを犠牲にしなければならない業のようなものです。様々なエネルギーの一つのみを取り上げ非難するのは、ベジタリアンが肉を食べる人を非難しているようで奇妙な印象を受けます。どのエネルギーを使うかと同様に大切なことは、可能な限り無駄なエネルギーを減らすこと、しかも効率的に減らすこと、のように思えます。 

気候変動とエネルギー問題 1

 温室効果ガスが気候変動の原因になっている可能性が高い以上、それと表裏一体となっているのはもちろんエネルギー問題です。もし人間がクリーンで安全なエネルギーだけで生活できるなら、この二つの問題は生まれることはなかったでしょう。エネルギー問題に関しては、2011年の震災以降、世界中特に日本で急速に議論が広まっていきましたが、僕はその議論の「バランスの悪さ」に違和感を感じてきました。 

 今の日本でエネルギー問題と言えば、おそらく99%以上の確率で、原子力発電の是非についてです。2年と少し前には環境保護団体など一部の人しか関心がなかった問題が、年齢、職業等を問わず、多くの人の関心の対象となり、そのための行動を起こす人も多いです。僕はこれ自体はよいことだと思いますし、日本のような地震の多い国で、旧式の原子力発電所をずさんな管理で稼働させることは大きなリスクがあると思います。

 しかし、2011年に目の当りとした原子力発電事故に対する恐怖のためか、問題の本質の部分がおろそかになっている人が多いような気がします。人間がエネルギーを使う場合、必ず多かれ少なかれ、何らかの犠牲を伴います。それは人的被害もあれば、自然環境に対するものもあります。大切なのは、エネルギーの利用そのものを抑えることです。「原発を止めても電気は足りる」ことは事実ですが、それはいまのところ火力発電の稼働率を上げて多くの温室効果ガスを排出することで可能になっています。

 原子力発電は絶対悪ではなく、それぞれメリットもデメリットもある様々な発電方法の中の一つとして、客観的にとらえるべきです。もし(原子力発電を利用せずに増加する温室効果ガスによる人的被害)>(原子力発電を利用して起こる事故による人的被害)となれば、僕は原子力発電を導入することに賛成するでしょう。

3月10日

 最近僕が働いている大学の先生にお話を伺って、それをヒントに夏の学会発表の方針がだいたい固まってきました。今は発表の申し込みのための要旨の準備をしているところです。審査を通るようにがんばります。

 体調は良いので、昨日は近くの川までサイクリングに行ってきました。人生のほとんどを川が流れる町で過ごしてきたせいか、水が流れているのを見ると落ち着きます。

黒澤明『生きる』

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志村喬、小田切みき 他

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 去年の7月の中ごろに病名が確定し、主治医に「手術できた場合でも五年後生存率は低く、手術できない場合はほとんどの場合あと数か月」と言われたときも、そこまで大きなショックはなく仕事も生活もほぼ以前と同じように続けていました。検査入院を数日後に控え、ちょうど仕事が一段落した日のことです。夜に近所の大型書店に立ち読みに行った帰り、歩いていると急に泣きたくなり近所の公園に駆け込み、30分ほど大声を出して泣き続けました。そしてもう泣く体力もなくなった時に、顔を上げるとブランコが目に入り、黒澤明の映画『生きる』の有名な場面を思い出しました。そして、こんな状況の時に映画のことを思い出したことが可笑しくなり、少し気が楽になりました。

 30年も無気力な役所勤めを続ける主人公は、ある日自分が胃がんであと数か月の命であることを知ります。人生の意味を見失い、歓楽街で遊びまわっても心は晴れません。しかしかつての部下だった女性の言葉「あなたも何か作ってみたら」を聞いて、彼は住民より陳情のあった公園を作るために奔走します。数か月後、彼は完成したばかりの夜の公園で、ブランコに乗って息を引き取っているところを発見されます。

 この映画を見ていなければ、僕は今頃何をしていたのでしょうか。気候工学について研究をしようと思うことも、このブログを始めることもなかったかもしれません。人は今まで経験したことのないことに出会ったとき、先人の経験を活かすという知恵を持つ、おそらく唯一の動物です。そして文学や映画は、長年にわたる多くの人間の経験の集大成であり、生きていく上で後天的に身につけることのできる最高の知恵です。

この日以来、一度も病気のことで泣いたことはありません。

P.S. 『生きる』のことを考えると、どうしても吉田戦車の4コマ漫画『伝染るんです』に出てくる豆腐破壊魔(「生きる」と書かれたヘルメットをかぶり、ロードバイクで買い物帰りの人に近づき、買ったばっかりの豆腐を粉々にして走り去る)のことを思い出してしまうorz

航空機の排出する温室効果ガスについて 2

 東京―ニューヨーク間の温室効果ガス一人当たり6440kgを、他の温室効果ガスと比較してみましょう。平均的燃費15.5kmの自動車を時速40kmで1時間走らせると、二酸化炭素約6kgが放出されるので、約1070時間、つまり1日1時間自動車を運転する人が約3年で放出する量です。また、トヨタの場合プリウスを生産するのに約6t、それ以外のガソリン車で約3tの二酸化炭素が放出されるので、東京―NY間で、プリウスなら1台、それ以外なら2台の自動車を作るだけの温室効果ガスが出ることになります。http://ecochu.goo-net.com/what/article_01/ 参照。

 よって、航空機利用を減らし、代わりに電車等を利用することが非常に効果的な温室効果ガス削減手段となります。たとえば東京―大阪間のような近距離なら、航空機でも新幹線でもそこまで時間に大きな差はないはずです。海外に行く場合でも、例えば京都からコペンハーゲンまで行くのにシベリア鉄道を利用している気候変動の専門家もいます http://econavi.eic.or.jp/news/detail/22303 。どうしても航空機を使わなければならない場合は、根本的な解決にはなりませんがカーボンオフセットで相殺することもできます(イギリスは、公務員の航空機利用をオフセットしているそうですhttp://www.eic.or.jp/news/?act=view&serial=17707&oversea=1 )。 

 70億の人間のうち、航空機を頻繁に利用するわずかな人たちがこれほど多くの温室効果ガスを排出しているにもかかわらず、この問題はあまり取り上げられることはありません。おそらく、航空機を今までのように使えなくなることで不利益を被る人が多いからでしょう。航空機が利用できないと、外国に行けなくなり国際化の妨げになる、という反論がありそうですが、私は決して利用すること自体が悪いとと言っているわけではありません。使う場合はそれが環境に与えている影響を良く考え、それに見合うだけのものを渡航から得てほしいと思っています。

航空機の排出する温室効果ガスについて 1

 温室効果ガスの削減方法については、様々な方法がいろいろなメディアを通じて示されています。たとえば、待機電力を減らしたり、乗用車の利用を減らしたり、さらには食材の輸送に伴う温室効果ガスを減らすために地産地消を奨励したりといったことがあげられます。こういった情報はよそでより詳しく解説されているため、ここでは省きます。僕が取り上げたいのは、実は大きな割合を占めているにもかかわらず、あまり話題となることのない航空機の温室効果ガスです。

 航空機の排出する排気ガスは、二酸化炭素は2008年度で1年あたり約7.5億トン(IEAの報告)で、2008年の二酸化炭素排出量303億トンのうち2.5%とあまり多くありません。しかしそれは窒素酸化物や水蒸気等、高高度で強力な温室効果ガスになるものを含むので、IPCCによるとその2.7倍の約20億トンの二酸化炭素に匹敵します。これは現在急速に増加していて2025年には40億トンほどになると予想されています(米運輸省等の報告)。これは、2008年のアメリカの年間約54億トンに迫る数字です。それにもかかわらず京都議定書でも削減対象となっていません。EUは加盟国内の空港に発着する航空機の温室効果ガスの規制を今年から始めましたが、アメリカ、中国等の反対により現在は凍結されています。

 個人の温室効果ガス排出の例として、国内線では東京(HND)-大阪(ITM)往復の排出量は二酸化炭素換算で一人当たり440kg(新幹線はJRの発表では東京―大阪間往復9.6kg)。これは、一般的な一人暮らしの日本人が生活で排出する年間約2000~2500kg(自動車等交通を除く)の2か月分以上になります。国際線ではさらに多く、東京(NRT)-ニューヨーク(JKF)往復では、二酸化炭素換算で一人当たり6440kg, ロンドンでは5918kg, シドニーでは4674kgとなります。つまり、1回の長距離海外旅行で、生活で出る二酸化炭素の2~3年分を放出します。(日本カーボンオフセット http://www.co-j.jp/home/  のサイトで計算)

3月8日

 今日から化学療法が変わり、ジェムザールという点滴とTS-1とうカプセルの組み合わせから、TS-1のみで量を増やすことになりました。効いてくれるといいのですが。採血の結果は毎回良かったり悪かったりですが、今日は肝臓の数値もそこまで高くなく(2つの基準値超えのうち一つはもう少しで正常範囲内)、血糖値も正常値内で、病気の悪化は少なくとも血液には出ていないみたいです。 

『ハチドリのひとしずく』と『賭博黙示録カイジ』 2

賭博黙示録カイジ(1) (ヤングマガジンコミックス)賭博黙示録カイジ(1) (ヤングマガジンコミックス)
(1996/09/03)
福本 伸行

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 もう一方の作品『賭博黙示録カイジ』は福本伸行作の劇画で、アニメ化や映画化されてヒットしたので観たことがある人も多いでしょう。主人公の自堕落な生活を送る青年、伊藤開司は友人の多額の借金の保証人になったために、その返済のために借金を帳消しにされるか、人身売買され新薬の実験台などに売り飛ばされるかを賭けた、豪華客船上で行われる「限定ジャンケン」といわれる頭脳戦のギャンブルに挑むことになります。

 かつて自分に借金を負わせた友人と、もう一人の男と三人でチームを組むことで勝利を重ね、カイジはギャンブルの終盤大金を手に入れ、自由の身になる寸前となります。しかしそのギャンブルのルールにより、3人のうち一人は「別室」と呼ばれる負けが確定した者たちが全裸で待機させらる部屋に送られることになります。じつは仲間が大金を払えば、別室にいるものをそこから救い出すことができるということを知っていたので、カイジは2人を信頼して大金を託し別室に送られます。

 しかし2人は彼を助けるための金を支払うのを拒否し、カイジは絶体絶命の危機にさらされます。裸で見知らぬ者たちと一緒に密室に閉じ込められ、周りには彼らを監視する屈強な男たち。しかし、彼は刻々と迫りくる破滅という恐怖の中で、考えることをやめません。彼と同じように、外にいる仲間に助けてもらうと言っていた、別室にいるある男の言葉がヒントになります。彼は状況を冷静に分析し、その男が高価な貴金属を隠し持っていること、それは男の肩に貼ってある絆創膏の下にあると推測を下します。そして乱心したように見せかけ男と取っ組み合いをすることで、どさくさに紛れて隠していた宝石を盗み取り、それと引き換えに別室からの脱出が認められます。

 カイジはその後も地上数十メートルの鉄骨渡りや、視力や聴力を賭けたカードゲームなど様々な修羅場を潜り抜けていきますが、彼の強みはどのような絶望的状況に置かれても、考えることをやめないというところにあるでしょう。彼が唯一敗北したのは、大手金融業者「帝愛」の会長との一対一の「ティッシュ箱くじ引き」というギャンブルです。彼は必勝の策を練りこのギャンブルに挑みましたが、自分が仕込んだ当たりくじがあるべき場所になかったとき、考えることを諦め運を天に任せます。「神よ…俺を祝福しろっ…!」という彼の言葉は、祈りではなく考えることをやめた人間の敗北宣言だったのです。

 このブログのタイトルにも入っている「あきらめない」という言葉は、決して希望がなくても精いっぱいの努力をするという意味ではありません。恐ろしくとも状況の過酷さを見つめ、勝算のある解決策を考え抜くことが気候変動という問題の解決において大切だと思って、このようなタイトルにしました。

『ハチドリのひとしずく』と『賭博黙示録カイジ』 1

ハチドリのひとしずく いま、私にできることハチドリのひとしずく いま、私にできること
(2005/11/22)
辻 信一

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 両方の作品を知っている人なら、なぜこの二つを一緒に取り上げるのか疑問に思うでしょう。アンデスに伝わる童話と、借金を肩代わりさせられ命がけのギャンブルに挑む青年を描いた劇画とは、まったく関連がないように思えるからです。

 『ハチドリのひとしずく いま、私にできること』は数年前から静かに話題になっているわずか17行の童話です。山が火事になり、多くの動物は逃げ出します。唯一ハチドリだけがそのくちばしで水を運び、山火事を消そうとします。その姿を見て笑う動物たちにハチドリはこう言います「私は、私にできることをしているだけ」(NGOナマケモノ倶楽部 http://www.sloth.gr.jp/movements/potori/ の紹介を参考にしました)。環境関連の団体などが地球環境と個人の努力との関係の寓話として取り上げることが多い物語です。多くの人が涙する、美しい童話です。

 あえて言います。僕はこの物語が嫌いです。より正確に言えば、この話を現在の地球環境をめぐる状況の寓話とする読み方が嫌いです。

 この話から得られる教訓は、「たとえどんなに小さなことでも、自分にできることをコツコツとやっていくことが大切」といったことでしょう。しかし当然ながら(ハチドリが川と森を往復する間に火事の広がる面積)<(ハチドリの運ぶ水で消火できる面積)の不等式が成立している限り、絶対に延焼を食い止めることはできません。「ひとしずく」は延焼速度を鈍らせるという点で無駄ではありませんが、根本的な解決にはなりません。

 無力なハチドリならこの話は美しい寓話として許されるでしょう。しかし人間はハチドリと違って、複雑な思考ができる頭脳と強力なテクノロジーがあります。その人間がしなければならないことは「自分にできること」ではなく、「現状を好転させるために十分な効果があること」を考え、協力し、実行に移すことではないでしょうか。レジ袋を使わなかったり、こまめに電気を消したりといった「できること」をすることが無意味とは言いません。しかしたとえば、レジ袋1枚を製造、焼却で出る二酸化炭素は約61g(省エネルギーセンターより)で、これは平均燃費15.5kmの自動車が時速40kmで走った場合、36秒で放出する量です。(日本カーボンオフセット http://www.co-j.jp/home/ のサイトで計算しました)

 どんなに苦しい状況でも「自分にできることをコツコツと」することは一見立派な行為に見えますが、それは現状の過酷さに目をつぶり、一種の思考停止、精神論に陥る危険性があります。 

3月7日

 昨日とおととい、一泊二日で行ってきた金沢旅行について。好きな作家である泉鏡花のゆかりの地を巡るのが主な目的でした。泉鏡花記念館の鏡花父子像。IMGP0058-fc2.jpg
記念館では、幻想的短編「龍潭譚」のコーナーが目を引きました。

浅野川に沿って歩いて、出世作「義血侠血」のヒロイン、滝の白糸の像と、主人公と彼女が出会う天神橋まで。
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10分ほど橋の上にいたけど、通ったのはじいさん一人だった(´・ω・`) ショボーン。ここから坂道を登って鏡花句碑へ。

子供時代の鏡花が通った、通称「暗がり坂」。今はもう明るくなってます。
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その後主計町茶屋街、ひがし茶屋街などに行って、金沢21世紀美術館へ。写真は恒久展示の「カラー・アクティヴィティ・ハウス」IMGP0091-fc2.jpg
草間彌生や村上隆の現代アートと、ゴヤのエッチング作品が展示してある「ソンエリュミエール、そして叡智」という展覧会を観てきました。結構気持ち悪い作品が多かった。途中でトイレに入ったら、その中にも作品があって思わずいったん外に出ました。あと、有名な「スイミングプール」(プールの中が空洞になっていて、そこに入れば水中に人がいるように見える)のプールの中に入ったら、僕一人だけでやたら注目された。

炭素収支

 人間の放出する二酸化炭素が、気候変動の主な原因である可能性が高いことが、ほぼすべての研究者の共通認識であることは以前に書きました。それでは、今はどういった状況なのでしょうか?環境庁のデータによると、2010年において1年間に人間が化石燃料を燃やすことで放出している二酸化炭素量は約303億トン。国別の主な内訳は、多い順に中国72.7億トン(24.0%)、アメリカ53.6億トン(17.7%)、EU、インド、ロシアときて6位日本11.5億(3.8%)トンとなります。一人あたりの排出量では最大がアメリカの17.4トンで、日本は9.0トンとなります。日本の場合、工場などの産業の排出が35.8%、オフィスなどの業務が21.1%と、合わせて半分以上です。日本が工業製品を多く輸出していることを考えると、その分だけ日本の排出量は高めと言えます。http://www.env.go.jp/earth/ondanka/shiryo.html#06

 これに対して、地球環境が吸収できる二酸化炭素量は環境庁の資料によると1年間に森林、海洋合わせて約114億トン(31億炭素トン。これに44/12をかけると二酸化炭素量になる)と、人間の排出量の約3分の1に過ぎません。この吸収量は今後森林の減少や、海水温の上昇があれば減少することが予想されます。

 この炭素収支をお金の収支で考えてみましょう。ある国に年収が日本円で114万円の家庭があるとします。この国ではそれだけの収入があれば、貧しいながらも生活することができます。しかし一家の中に一人か二人ほどぜいたくな暮らしをしている者がいて、そのため一家の支出は年間303万円です。当然赤字なので、家族は借金をして生活しています。未来にその借金を払うのは家族の中の幼い子供たちで、特に贅沢をして家族を借金漬けにしているのは、先進国に住む僕たちです。
(アメリカ、EU、ロシア、日本の約10.8億人だけで排出量は108.7億トン、全体の1/3以上です。たとえばインドの二酸化炭素排出量は一人当たりわずか1.37トンで、アメリカ人の約13分の1です)。
 
 また、前述のインドネシアの泥炭地から、火災や泥炭の分解から生じる二酸化炭素は年間約20億トンです。これは先ほどのたとえを使うなら、家族の支出の中にたとえば病気の治療代が年20万円加わり、収入が実質90万円になることを意味しています。これまで計算に入れると、この家族の年間の収支は114-303-20=-209で209万円の赤字になります。家計に例えると、僕たちはこれほど厳しい状況で生活しているのです。

3月6日

 週末と言っていたのに、フライングして投稿しました。昨日から一泊二日で金沢に行き、作家泉鏡花にゆかりの地や、金沢21世紀美術館になど行ってきました。時間があったらそれについてブログに書くかもしれません。

ヴァーチャルな病としての気候変動

 僕が患っている病気はすい臓がんの一種ですが、すい臓がんはがんの中でも極めて危険なものとして知られています。その理由の一つに、自覚症状があまり強くなく発見が難しいことがあります。僕の場合も、痛みは現在でもほとんど感じられず、すい臓が悪い時に上昇する血糖値も、軽い糖尿病のときの値ぐらいです。もし去年の6月に検査を受けることがなかったら、今頃は以前と同じ生活をしていたかもしれません。

 僕が病気であり、それが進行しているという根拠は、今のところ僕の肉体が感じる痛みや苦しさではなくCTスキャンやPETといった、最先端のX線や陽電子を使ったスキャンから得られた画像です。「今日はちょっと熱があるから、風邪かもしれない」とは対極にあります。自分の体の状態が自分ではなく、最新のテクノロジーが外部から計測したデータによって知らされるという、奇妙な状況に置かれています(現代アメリカの作家、ドン・デリーロの『ホワイトノイズ』という作品が、これと同じような状況を扱っています)。

 気候変動の置かれた状況も、このポストモダン的ともいえる状況と共通点があると思います。僕たちは、本当に地球の気温が上昇しているのかどうか、それにより気候パターンが乱されているかどうかを大量のデータの統計によってしか知ることはできず、しかもそれについては議論が続いています。またそれが私たちが原因なのか、これからどうなるのかに関しては、非線形的、カオス的な気候についてモデルを作り、スーパーコンピューターでシミュレーションを行い、それでも100%確実とは言い切れません。「今日は少し暖かかったから、もう春が来るだろう」のように単純ではありません。

 しかしたとえ痛みを感じなくても、専門の医師が十分な検査の結果の末に下した診断に異を唱える人は少ないでしょう。それと同じで、たとえ自分の肌で変化を感じられなくても(最近は、もう感じられるほどになってきたと思いますが)、世界の優秀な科学者の多くが、人間の活動が原因で気候が変わってきている可能性が高いという判断を下しているのです(次のブログによると、「人為的温暖化を否定する査読付き論文:0.17%」だそうです http://ptrboundary.at.webry.info/201212/article_1.html )。これを信じて、行動に移すのは合理的な選択でしょう。

3月4日

 今日は病院に行って、主治医に友人の助けを得て探してきた、効果がありそうな治療法に関するデータを渡してもらってきました。肝臓にカテーテルで直接抗がん剤を送る方法で、僕のような患者にも効果があったそうです。
 
 明日から一泊二日で旅行に行くので、次の更新は今週末になります。

病気になった「意味」について

 僕が病気を告知された2012年の6月は、新しい職場で働き始め2年と少しで仕事も軌道に乗ってきて、プライベートも充実していて、挫折続きの僕の人生の中で最も順風満帆の時期でした。気候変動の問題について自分の無力さを自覚しつつあった僕は、もうそれを放り出して自分と、その周辺の限られた人の幸せのみを願って生きていこうと思い始めていました。たとえ気候をめぐる状況がひどくなったとしても、比較的恵まれた先進国に住み、きちんと働いて貯金をしそれに備えていれば、しばらくは何とかなるんじゃないか。自分には子供はいないし、これから持つ気もなかったので、あと10年かそこら幸せに暮らせればそれで十分、と思い始めていました。自分ががんであるとわかったのは、まさにそういった時期でした。

 このあまりのタイミングとそれが持つ意味について考えました。偶然とは思えない、何か理由があるのではと。しかし、僕は一度は物理学を志した人間です。たとえ超自然的な存在がいるとしても、それが現実に影響を与えることは非科学的です。そして同時に、僕は文学を学んだ人間です。現代の文学批評において、作品の絶対的意味は存在しません。「意味」とは常に作品とそれを読む人間、つまり対象と観測者の関係の中から生成するものです。

 つまり、僕が最も幸福な時期に、最も厳しく珍しいがんの一つにかかったことは、100%疑いの余地なくただの偶然です。それ自体には何の意味もありません。それに意味を与えるのは、その後自分が何をしたかということです。それがこのブログを始めた理由の一つです。

海氷消滅後に何が起こるか

 それでは、海氷の消滅後にいったい何が起こるでしょうか?Wadhams教授によると、北極海の海水温が夏の終わりまでに約7℃急速に上昇するということです。
http://ameg.me/index.php/39-prof-wadhams-on-latent-heat

これは融解熱という、0℃の氷が0℃の水に代わるときに必要とされる熱量が非常に大きく、今まで融解熱に使われていた熱量が海水の温度上昇に使われるようになるからです。この熱はどのぐらいの温度上昇を起こすのでしょうか?たとえば1年間に減少する氷が800立法キロとすると、その氷の融解熱は6.4×10^19calで、北極海の面積9.5×10^6平方キロ、深さ1mまで影響を受けるとすると、温度上昇はちょうど7度ぐらいになります。

 また海氷の消滅で北極圏の太陽光の反射率が大きく減少し、気温上昇の速度が増加します。東京大学気候システム研究センターの阿部彩子博士のシミュレーションによると、海氷消滅後の15年で、北極圏の気温が15℃上昇、地球全体では2℃上昇するとのことです。

 これにより引き起こされる最大の危険は、北極海やその近傍に大量に蓄えられたメタンハイドレート(シャーベット状になったメタン)が不安定になり、崩壊し大気に放出されることです。メタンハイドレートは近年日本近海の海底に大量に存在することから資源として注目を集めていますが、温度や圧力などの変化に非常に敏感で、不安定になり気体となる傾向があります。AMEGのブックレットp.9(AMEGのトップページ、CLICK HERE DOWNLOAD PDF BOOKLETからダウンロード可能)によると、北極海やその周辺の永久凍土に存在するメタンハイドレートの量は約1兆7000億トン、そのうちの500億トンが不安定で今にも崩壊しそうな状態にあります。

 メタンは非常に強力な温室効果ガスで、100年間で平均すると二酸化炭素の20倍程度の温室効果を持つことはよく知られています。しかし短期間に大量に排出された場合はさらに強力になります。それは、通常はメタンは大気中のOHラジカルと呼ばれる活性酸素と反応して二酸化炭素となりますが、一度に大量に排出された場合はOHラジカルが不足するため、二酸化炭素に分解されることが少なくなり、放出後20年では実に二酸化炭素の120倍という温室効果を持つことになります(AMEGブックレットp.9参照)。

 もし北極のメタンハイドレートのうち1年に1億トンしか放出されないとしても、その温室効果は100年間で平均しても20億トンとなります。地球の二酸化炭素吸収力は年110億トンですが、インドネシアの泥炭火災などで1年に20億トンも二酸化炭素が放出されていることを考えると、実質90億トンしかありません。
http://hutang.jimdo.com/%E6%B3%A5%E7%82%AD%E6%B9%BF%E5%9C%B0%E7%AD%89/ 参照。
これに北極圏のメタンを加えると、たとえ人間が温室効果ガスをかなりの程度まで削減できたとしても、大気中の温室効果ガスが増加する計算となります。人間の温室効果ガス放出は年300億トン以上、中国だけでも75億トン(2009年)もあるのです

北極海氷の減少

 ここ数年9月ごろになると、新聞やニュースで北極の氷が史上第何位の減少を記録した、という報道がよくあります。実際どのぐらい海氷は減少しているのでしょうか。報道されるのはほとんど海氷の面積ですが、あとどのくらい氷があるかを論じるのに面積を用いることがおかしいことは、素人でもわかることです。海氷量は当然体積で示されるべきです。

 (これより「ジオエンジニアリング ネットフォーラム」http://geoeng.brs.nihon-u.ac.jp/index.html からの情報を参考にしています)、ワシントン大学はPIOMASというほぼリアルタイムで数値モデルと観測データにより、海氷体積の測定するシステムを開発していましたが、そのデータは信頼性に乏しいとする研究者もいました。ですが最近そのデータが人工衛星Cyrosat-2を使った実際の測定データと一致していることがわかりそのデータを元にケンブリッジ大のWadhams教授をはじめとする専門家たちが警鐘を鳴らしています。

 北極海氷は冬に増加し夏に減少するので、海氷の最少体積、面積は9月に記録されます。PIOMASの測定によると、2005年の海氷体積は9159km^3、面積が激減して話題となった2007年は6458km^3、2012年は3263km^3、そして今年の予想は約2000km^3となります。これをグラフにすると以下のようになります。(画像は、Arctic Sea Ice Blog http://neven1.typepad.com/ の管理人より引用許可をいただきました)縦軸が体積(立法キロ)、横軸が月、実線は観測値、点線は予測値になります。
2013prediction.png

また次のグラフは、9月の海氷体積の年ごとの変化を示したものです。縦軸は同じですが、横軸は年となります。9月平均なので、最小値より少し大きい値となります。

seaiceprediction2013.png

 Wadhams教授を中心とする気候学者の団体、Arctic Methane Emergency Group (http://www.ameg.me/)は、こういったデータを元に海氷消滅の最も起こり得る時期を2015年9月と予想しています。また2013年に消滅の可能性も5~10%あると見積もっています(AMEGのトップページ、CLICK HERE DOWNLOAD PDF BOOKLETからダウンロードできるブックレットを参照)。今までは海氷消滅が早くても2040年ごろと見積もられていたのですが、この体積の急激な減少から考えると、とてもそれまでは持ちそうにありません。 

3月2日

 まだ勉強不足ですが、やっと見切り発車でブログを始めることができました。半年ほど前に高校時代の友人に書くことを勧められていたのですが、仕事や病気などを理由に先送りにしていました。まだ文字ばかりの読みにくいブログ(図表の引用許可は申請中)ですが、よろしければお付き合いください。

 それと研究のために、欧米の気象、気候操作が描かれている小説を探しています。まだマイケル・クライトンの『恐怖の存在』ぐらいしか思い当たらないので、ご存知の方は教えていただけると嬉しいです。
プロフィール

大熊座から来た男

Author:大熊座から来た男
HNは池澤夏樹『スティル・ライフ』より。
ブログ名は、ツンデレ美少女風に読んでください。
CV:今井麻美、斎藤千和推奨。

膵腺房細胞癌という非常に珍しい病気と闘いながら、気候変動(特に北極圏問題)や気候工学(ジオエンジニアリング)について学んだ情報を発信していきます(体調不良のため、最近は闘病ブログになりつつあります)。気候学は独学で勉強中なので、いろいろとご指摘お願いします。

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